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専門医に聞くpresented by 小豆畑病院

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01消化器がんの早期発見(前編)

富田凉一先生(外科・消化器外科・がん治療) 2017-10-10 Update

早期発見に必要なのは
こまめな健診、
そして「医師の目」です。

早期発見に必要なのは
こまめな健診、
そして「医師の目」です。

消化器とは食べ物の消化や吸収を担う臓器で、食道・胃・大腸・小腸・肝臓・胆道・膵臓などを指します。
これらの消化器にできるがんは悪性腫瘍による死因の上位を占めており、男性では2位が胃がん、3位が大腸がん、女性では1位が大腸がん、3位が胃がんと報告されています。
その一方、胃がんや大腸がんは早期に発見できれば外科的治療により治すことが比較的容易ながんでもあります。今回は胃がんと大腸がんを中心に、手術症例数6,000件以上にのぼる富田凉一先生に消化器がんの早期発見・治療についてお話をうかがいました。

聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦

CONTENTS
1
病院は病気にならないために行くところ
2
ピロリ菌は必ず除菌しておきたい
3
PET検査の過信は禁物

ピロリ菌は必ず除菌しておきたい

——

そもそも、消化器がんには何か予防法があるのでしょうか?

富田

消化器は食べ物の消化や吸収を担う臓器ですから、いずれの消化器がんもその原因に摂取する食べ物が大きく関わっています。

よって、消化器がん予防の基本は食生活の改善といえます。おすすめは「塩分控えめの和食」ですね

また、野菜の摂取に心がけ、暴飲暴食を避け、腹八分目にして適度な運動を習慣化することが、長い目で見ると消化器がんの予防につながります。

——

臓器別に見ていくと、予防法にも違いがありますか?

富田

日本人は胃がんになる人が多いのですが、いま申し上げた「塩分を控えること」は胃がんの予防に有効です。

大腸がんの場合は、脂肪分を控えて食物繊維を積極的に摂ること。つまり、肥満の防止が大切になります。

なお、口腔がん、食道がん、胃がんなどは、タバコをやめたりアルコール摂取を控えめにすることも重要な予防法になります。

——

胃がんの予防法として、最近はピロリ菌の除菌も指摘されるようになりました。

富田

おっしゃるとおり。

胃がんの最も有効な予防法に、胃の中のピロリ菌(正式名称:ヘリコバクターピロリ菌)の除去があります。

ピロリ菌とは胃の中に生息している病原菌で、胃がんの原因となる慢性胃炎を引き起こし、胃がんのリスクを約3倍に増大させることが明らかになっています。

日本人は国際的に見てもピロリ菌の感染者が多いことが分かっています。しかも、加齢とともに感染率が上がり、40歳代で70%、60歳代ではじつに80%もの人がピロリ菌感染者と言われています。

——

検査と除菌はどのように行われるのでしょうか?

富田

感染の有無は内視鏡検査や尿素呼気検査(吐いた息を検査する方法)などで簡単に調べられます。

その結果、感染が確認された場合は、抗生物質などの内服薬(除菌薬)を用いれば約80%の人が1週間ほどで除菌できます。

1回で除菌できなかった人も別の薬で除菌できることが多く、最終的には約95%の人がピロリ菌の除菌に成功します。

——

胃がんの予防という意味では、ピロリ菌感染の有無は早めに確認しておいたほうがよさそうですね。

富田

ええ。

感染率が高い40歳以上の人は、特に胃の不調を感じなくても必ず一度はピロリ菌の検査を受けておくことをお勧めします。

——

次に、大腸がんの予防法について教えていただけますか。

富田

日本では大腸がんになる人が増加傾向にあるのですが、その背景として食生活の欧米化が指摘されています。

すなわち、食物繊維の多い穀類や野菜中心の伝統的な和食を食べる機会が減り、動物性脂肪の多い洋風の食事を摂る機会が増えているということです。

これが、大腸がん増加の一因とされています。

——

では、まず食生活を変えるところからですか?

富田

そうですね。

大腸がんを予防するには、なるべく動物性脂肪の摂取を避け、野菜中心の食生活を心がけることが大切になります。

また、WHO(世界保健機関)は2003年に、肥満は大腸がんの確実なリスク因子であると認定しました。

逆にいえば、肥満傾向にある人は食生活をしっかりコントロールし適正体重に戻すことが大腸がん予防という意味では先決です。

——

それ以外にもありますか?

富田

腸内に住む細菌のうち、有害な悪玉菌が増えると腸の健康に悪影響を与えることも分かっています。

腸に良い影響を与える善玉菌を含むヨーグルトや納豆、味噌などを積極的に摂取し、腸内環境を整えることも大腸がんの予防につながるでしょう。

 

(つづく)

富田凉一

富田凉一tomita ryoichi

日本歯科大学生命歯学部外科学講座主任教授
日本大学医学部外科系小児·乳腺内分泌外科学分野客員教授

専門

外科、消化器外科、肝胆膵外科、大腸・肛門科、消化器がん治療

1981年9月日本大学大学院医学研究科(外科学1)を修了後、社会保険横浜中央病院外科部長、日本大学医学部助教授(准教授)を経て、1999年4月日本歯科大学外科学講座主任教授(日本歯科大学大学院外科学担当)、日本大学医学部外科系小児・乳腺内分泌外科学分野客員教授に就任。
現在は、主に小児外科、乳腺内分泌外科、一般外科、消化器外科を中心に診療を行っている。そして、消化器機能に関する研究成果から個々の患者さんに適した術後の生活を考慮した術式の選択をしている。これまでの手術症例数は6,000件にのぼる。
これまでのシンポジウム、講演などの特別演題の発表は233題(国際学会27題を含む)。一般演題は1,092題(国際学会139題を含む)。また、発表論文数は640編(英文194編を含む)で、著書は47編(英文4編を含む)を数える。

専門性に関する資格

外科専門医・指導医
消化器外科専門医・指導医
消化器がん外科治療認定医
大腸肛門病専門医・指導医
肝胆膵外科高度技術指導医
癌治療臨床試験登録医

がん治療認定医機構教育医
消化管認定医・暫定専門医・暫定指導医
直腸機能障害指定医(東京都)
小腸機能障害指定医(東京都)
医師臨床研修制度指導医