「消化器がんの早期発見(前編)」では、日本人に多い胃がんと大腸がんを中心にお話をうかがいました。
後編は、消化器がんのなかでも特に早期発見が難しいとされる、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんについて、引き続き詳しくうかがっていきます。
聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦
「消化器がんの早期発見(前編)」では、日本人に多い胃がんと大腸がんを中心にお話をうかがいました。
後編は、消化器がんのなかでも特に早期発見が難しいとされる、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんについて、引き続き詳しくうかがっていきます。
聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦
次に食道がんについてうかがいます。
そもそも食道とは、具体的にどこからどの部分までを指すのでしょうか?
食道は咽頭と胃の間をつなぐ管腔臓器で、口から入れた食べ物を胃に運んでくれるものです。
食道がんの原因は何なのでしょう?
明確な原因は分かっていませんが、飲酒と喫煙の習慣がある人が食道がんを発症しやすいことは分かっています。
また、女性よりも男性に多いこと、60代以上になると発症率が上がることも分かっています。
日本で食道がんを発症する人の数は、年間約2万2,000人と言われています。
胃がんや大腸がんに比べれば少ないものの、決して珍しいがんとは言えません。
食道にがんができると食べ物の通りが悪くなるはずですよね。
早期発見はそんなに難しくないような気もしますが……。
ところが、食道がんも他の消化器がんと同様に初期症状がない人が多く、早期発見は容易ではありません。
早期食道がんは食道の「粘膜上皮」に発生しますが、食道がんの多くは食道壁に浸潤した進行がんとして発見されます。
食道がんの初期は、「食べたものが軽くつかえる感じ」や「食べたり飲んだりしたときにしみる感じ」があるのですが、強い痛みや嚥下困難感があるわけではないので、そのまま放置してしまう人も多いのです。
さらに、最近は患者さん本人が、「この症状から察するに、自分は逆流性食道炎なのだろう」と判断され、早めの受診をされないケースも増えているように感じています。
放置したままがんが進行すると、がんによって食道が狭められ、固形物がつかえるようになり、痛みを感じる人が出てきます。
さらにがんが進行すると、柔らかいものまで通りが悪くなり、水や自分の唾液を飲み込むことさえ困難になってきます。
食道の違和感だけでなく、声のかすれや体重の減少、頸部リンパ節の腫れなどがきっかけで食道がんが発見されるケースもあります。
やはり、早期発見には検診しかありませんか?
こまめに検診を受けることが大切ですね。
先ほど述べたとおり、飲酒や喫煙の習慣がある人は食道がんを発症するリスクが高いことが分かっていますので、該当する方は自覚症状の有無にかかわらず、必ず年に1度は検査を受けていただければと思います。
検査はどのように行われますか?
食道がんの検査で最も一般的なものは内視鏡検査です。
内視鏡で食道内部を直接観察し、異状が認められた場合はさらにヨード液を使った染色検査を行います。
ヨード液を使うと正常な部分は黒く染まりますが、がんのある部分は染まらないので、はっきりとがんの有無が確認できます。
一般的な治療法はどのようなものですか?
もし、食道にがんが見つかった場合は、進行度や患者さんの全身状態に応じて、手術、放射線治療、抗がん剤治療などを行うことになります。
食道がんもほかのがんと同様に、発見が早ければ早いほど治療の効果が期待できます。
食べる楽しみを失わないためにも、禁煙を心がけ、飲酒はほどほどにすること、そして飲み込むときに違和感がある場合は放置せず、早急に医師に相談することが大切です。
分かりました。
では、次に肝臓がん(肝細胞がん)の早期発見について教えていただけますか?
日本で肝臓がんが急激に増えるのは1970年代以降です。
これは、戦後の売血制度や輸血を利用した肺結核手術などにより、B型・C型肝炎ウィルスが多くの人に感染したためだと言われています。
いまでも、日本人の肝臓がんのほとんどは、B型またはC型肝炎ウィルスの感染によるものです。
もっとも、輸血によるウィルス感染は現在ではほぼ完全に予防されていますし、分娩時に母親のB型肝炎ウィルスが子供に感染する「母子感染」も予防することができます。
しかし食生活の変化により、近年は脂肪肝やアルコールの多飲などウィルス感染以外の原因で発症する症例も増えています。
ウィルス感染の有無はどのようにして分かるのでしょうか?
現在、日本国内のB型・C型肝炎感染者の数は推定で210~280万人です。
そのうち約3割の人は感染に気づいていないと言われています。肝炎ウィルスは感染してからしばらくの間は自覚症状がないためです。
しかし、そのまま放置していると、やがて慢性肝炎や肝硬変から肝臓がんを発症してしまうケースが珍しくありません。
これらの病気は、早期に適切な治療を受ければ進行を遅らせることが不可能ではありません。
以下の条件に当てはまる人は、なるべく早めに医療機関で検査を受けることをお勧めします。検査は簡単な血液検査で、1週間ほどで結果を知ることができます。
万一、感染が確認された場合は適切な治療を受けてください。
■肝炎ウィルス検査を受けた方がいい人
・家族に肝炎ウィルスに感染している人、肝臓がんの患者がいる人
・母子感染予防策が実施されていなかった1985年(昭和60年)以前に生まれた人
・輸血や手術を受けたことがある人
つまり、肝炎の検査や治療を早期に受けることが、結果として肝臓がんの予防につながるわけですね。
そうです。
もちろん、肝炎ウィルス以外が原因の肝臓がんもありますので、アルコールの摂り過ぎや脂肪肝の原因になる肥満を避けるのも重要な予防法といえます。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれているとおり、肝臓がんを発症しても初期段階では自覚症状がない場合がほとんどです。
下腹部の痛みや発熱、黄疸などの症状が出て来院され、検査の結果、肝臓がんが発見されるケースもありますが、最も多いのは慢性肝炎や肝硬変の治療中に偶然肝臓がんが見つかるケースです。
肝臓がんも他のがんと同様、患者自身が早期発見することは難しそうですね。
かなり難しいと思います。
もし自覚症状があったとしても、その頃にはかなりがんが進行している可能性が高く、早期発見とは言えません。
繰り返しになりますが、肝臓がんの早期発見もまた、日頃から何でも相談できるかかりつけ医を持ち、適宜検査を受けることが何よりも大切です。
ただし、肝臓がんの場合は厄介で、がんを発症していても通常の血液検査(肝機能検査)では異常が見つからないこともあります。
血液検査だけでなく、血中の腫瘍マーカーや腹部超音波による検査まで受けておかれると安心でしょう。
(つづく)
日本歯科大学生命歯学部外科学講座主任教授
日本大学医学部外科系小児·乳腺内分泌外科学分野客員教授
外科、消化器外科、肝胆膵外科、大腸・肛門科、消化器がん治療
1981年9月日本大学大学院医学研究科(外科学1)を修了後、社会保険横浜中央病院外科部長、日本大学医学部助教授(准教授)を経て、1999年4月日本歯科大学外科学講座主任教授(日本歯科大学大学院外科学担当)、日本大学医学部外科系小児・乳腺内分泌外科学分野客員教授に就任。
現在は、主に小児外科、乳腺内分泌外科、一般外科、消化器外科を中心に診療を行っている。そして、消化器機能に関する研究成果から個々の患者さんに適した術後の生活を考慮した術式の選択をしている。これまでの手術症例数は6,000件にのぼる。
これまでのシンポジウム、講演などの特別演題の発表は233題(国際学会27題を含む)。一般演題は1,092題(国際学会139題を含む)。また、発表論文数は640編(英文194編を含む)で、著書は47編(英文4編を含む)を数える。
外科専門医・指導医
消化器外科専門医・指導医
消化器がん外科治療認定医
大腸肛門病専門医・指導医
肝胆膵外科高度技術指導医
癌治療臨床試験登録医
がん治療認定医機構教育医
消化管認定医・暫定専門医・暫定指導医
直腸機能障害指定医(東京都)
小腸機能障害指定医(東京都)
医師臨床研修制度指導医