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専門医に聞くpresented by 小豆畑病院

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02消化器がんの早期発見(後編)

富田凉一先生(外科・消化器外科・がん治療) 2017-10-20 Update

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「消化器がんの早期発見(前編)」では、日本人に多い胃がんと大腸がんを中心にお話をうかがいました。
後編は、消化器がんのなかでも特に早期発見が難しいとされる、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんについて、引き続き詳しくうかがっていきます。

聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦

CONTENTS
1
男性に多い食道がん、ウィルス感染に注意の肝臓がん
2
膵臓がんの発見は、いまだに難しいのか?
3
症状は多彩だが発見の難しい胆道がん

膵臓がんの発見は、いまだに難しいのか?

——

消化器の各臓器のうち、早期発見が最も難しいのは膵臓がんというイメージがあります。

膵臓がんについては、「見つかった時点で手遅れ」という話もよく聞きますが……。

富田

膵臓は胃の後ろにある臓器です。

主な役割は食べ物を消化する膵液をつくり、十二指腸に送り出すこと。

また、血液中の糖分量を調節するホルモンをつくり、血液中に送り出すことです。

内臓のなかでも奥深いところにある臓器のため病気が見つけにくく、膵臓がんはがんのなかでも早期発見が最も難しいがんの一つと言えます。

——

自覚症状にはどのようなものがありますか?

富田

初期段階では自覚症状がほとんどなく、背中や腰の痛み、食欲不振や体のだるさ、黄疸など具体的な症状が現れたころには、がんが進行しているケースがほとんどです。

しかも、そうした自覚症状の多くが、膵臓がんに限ったものではないため、患者さん自身が「たんなる胃腸の不調だろう」と思い込み、受診しないまま放置して、がんが深刻な状況にまで進行してしまうケースも多くあります

——

膵臓がんの場合は、健康診断を受けていても早期発見は難しいですか?

富田

一般的な健診では、早期発見は難しいといえます。

——

それは厄介ですね。

富田

医師の立場からいえば、検診の結果を見る際に、血糖値(「空腹時血糖」「尿糖」「HbA1c」の値)のコントロール不良(糖尿病の発症や悪化)を見逃さないことが膵臓がん発見の手がかりになります

前述のとおり、膵臓は血液中の糖分をコントロールするホルモンを分泌しているので、膵臓に異常が現れると、血糖値を下げるインスリンの分泌量が減り、血糖値が上昇します。

前回の健診時に比べて血糖値が上昇している場合は、膵臓がんの可能性も考えられます。

ちなみに、膵臓がんの患者さんは糖尿病を合併している方が多いので、糖尿病と診断された方も膵臓がんの検査を受けることをお勧めしています。

——

膵臓がんの検査はどのような手順で行われますか?

富田

まずは血液検査です。

膵臓から分泌される酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1など)が正常値かどうかを調べます。

ただし、酵素の異常は膵臓の疾患全般に見られるため、これだけで膵臓がんと断定することはできません。

このほか、CEAやCA19-9などの腫瘍マーカーや超音波検査も行いますが、いずれも初期のごく小さながんを発見するのは困難です。

——

やはり初期段階での発見は難しいのですね。

富田

ええ。

そして、これらの検査の結果、膵臓がんの疑いがあった場合はCT検査を行います。

CT検査とは身体にX線を当てて、輪切り状になった身体の断層写真を撮影する検査方法です。

外側からは見えない身体内部の様子を詳しく観察することができます。

最近はX線の被ばく量を抑えながらも、かなり鮮明な画像撮影が可能なCT検査装置も増えています。

——

膵臓がんは今でも、発見が遅れると治療できないものなのでしょうか?

富田

できないわけではありませんが、完治は非常に難しくなります。

というのも、膵臓がんの完治が期待できる治療法は、病巣部を外科的手術で切除することなのですが、この手術は誰にでも行えるわけではなく、がんの進行程度(ステージ)によって行えないケースも多いからです。

——

どうして進行程度によっては手術できないのでしょう?

富田

がんがリンパ節や他の臓器などに転移している場合、近接する神経に直接浸潤している場合は、他の消化器がんと比較して悪性度が強く、摘出しても延命効果がないと考えられているためです。

手術が行えない患者さんには、抗がん剤治療や放射線治療などが行われますが、それらの治療で疼痛などの軽減ができても膵臓がんを完治することは極めて難しいのが現状です。

ですから膵臓がんの場合は特に、早期発見と早期治療が何よりも重要になります。

——

早期発見が難しいうえに治療も難しいとなると、膵臓がんの予防だけはしっかりやっておかなくてはと思わされます。

何か有効な予防法はあるのでしょうか?

富田

残念ながら、膵臓がんを完全に予防する方法はありません。

ただ、肥満の人、タバコやお酒の摂取量が多い人ほど膵臓がんの発症リスクが高くなることが分かっていますので、喫煙や飲酒の習慣がある人は生活習慣を見直すことから始めてください。

特にアルコールの多飲によって起きることが多い慢性膵炎を患った場合、膵臓がんになるリスクが高くなることが分かっています。

アルコールは適量を守ることを、ぜひ心がけてください。

また、前述のように糖尿病が発症した場合、糖尿病のコントロールが不良となった場合、腰痛が悪化している場合なども注意が必要です。

 

(つづく)

富田凉一

富田凉一tomita ryoichi

日本歯科大学生命歯学部外科学講座主任教授
日本大学医学部外科系小児·乳腺内分泌外科学分野客員教授

専門

外科、消化器外科、肝胆膵外科、大腸・肛門科、消化器がん治療

1981年9月日本大学大学院医学研究科(外科学1)を修了後、社会保険横浜中央病院外科部長、日本大学医学部助教授(准教授)を経て、1999年4月日本歯科大学外科学講座主任教授(日本歯科大学大学院外科学担当)、日本大学医学部外科系小児・乳腺内分泌外科学分野客員教授に就任。
現在は、主に小児外科、乳腺内分泌外科、一般外科、消化器外科を中心に診療を行っている。そして、消化器機能に関する研究成果から個々の患者さんに適した術後の生活を考慮した術式の選択をしている。これまでの手術症例数は6,000件にのぼる。
これまでのシンポジウム、講演などの特別演題の発表は233題(国際学会27題を含む)。一般演題は1,092題(国際学会139題を含む)。また、発表論文数は640編(英文194編を含む)で、著書は47編(英文4編を含む)を数える。

専門性に関する資格

外科専門医・指導医
消化器外科専門医・指導医
消化器がん外科治療認定医
大腸肛門病専門医・指導医
肝胆膵外科高度技術指導医
癌治療臨床試験登録医

がん治療認定医機構教育医
消化管認定医・暫定専門医・暫定指導医
直腸機能障害指定医(東京都)
小腸機能障害指定医(東京都)
医師臨床研修制度指導医