「消化器がんの早期発見(前編)」では、日本人に多い胃がんと大腸がんを中心にお話をうかがいました。
後編は、消化器がんのなかでも特に早期発見が難しいとされる、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんについて、引き続き詳しくうかがっていきます。
聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦
「消化器がんの早期発見(前編)」では、日本人に多い胃がんと大腸がんを中心にお話をうかがいました。
後編は、消化器がんのなかでも特に早期発見が難しいとされる、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんについて、引き続き詳しくうかがっていきます。
聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦
最後に胆道がんについてうかがいます。
まずは、その特徴から教えていただけますか?
胆道とは、肝臓でつくられた胆汁を十二指腸乳頭部まで運ぶ管のことです。
胆管の途中には胆汁を蓄える袋状の臓器があり、これを「胆嚢」と呼びます。
胆道がんはこの胆道や胆嚢、乳頭部にできるがんの総称で、日本人は世界的に見て胆道がんの発症率が高いことが分かっています。
また、胆管がんは男性に、胆嚢がんは女性に多いことも分かっています。
男女差があるのですね。
胆管がんと胆嚢がんでは症状が異なりますか?
おおむね同じで、以下のような症状が認められます。
ただし、胆管がんは比較的早い時期から黄疸の症状が見られるので本人が異常に気づきやすいのですが、胆嚢がんは初期症状がほとんどないので、発見が遅くなる傾向にあります。
■胆道がんの主な症状
黄疸
がんにより胆管が閉塞すると行き場をなくした胆汁が血管に逆流し、血液中に胆汁のビルビリン(黄色い色素を持つ成分)が広がり、目や皮膚が黄色くなる。
胆嚢がんの場合は、胆嚢内にできたがんが胆管に浸潤してからはじめて黄疸症状が出るので、黄疸の出る時期が胆管がんに比べて遅くなる。
発熱
胆管内でつまった胆汁に細菌が感染して発熱する。
尿の色の変化
血液中に増えたビルビリンが尿から排泄されるため、尿の色が濃くなったり茶色くなったりする。
便の色の変化
十二指腸で食べ物とビルビリンを含む胆汁が混ざると、正常な便に黄色や茶色の色がつく。
がんによって胆管がつまると十二指腸に胆汁が届かなくなるため、便に色が付かず白い便になる。
掻痒感
黄疸が進むと皮膚にかゆみを生じる。
倦怠感
がんによって肝障害が起き、身体全体に倦怠感が生じる。
このほか、胆道がんでは食欲不振や疼痛などの症状が現れることもあります。
また、胆管がんや胆嚢がんで胆管が閉塞すると、つまった胆汁によって胆嚢が肥大します。その際は、体表から胆嚢に触れられることもあります。
なるほど。
胆道がんは他のがんに比べると黄疸が出たり尿や便の色が変化したり、さまざまな症状があるのですね。
では、早期発見もしやすいのではないでしょうか?
たしかに、目に見える症状が多いのは特徴の一つです。
ただ、残念ながら胆道がんも初期は自覚症状がなく、黄疸など目に見える症状が出るころには、がんが進行しているケースがほとんどです。
そうなんですか。
特に胆嚢がんは症状が出るのが遅く、発見が遅れてステージが進むと唯一の根治的治療である外科的手術ができなくなります。
1日も早く見つけるためには、尿や便、皮膚の色をこまめに観察すると同時に、検診をまめに受けることが大切です。
なお、早期胆嚢がんは胆嚢内結石や胆嚢ポリープで経過を見ているとき、悪性への変化が疑われた場合に多く見つけることが可能です。
検査はどのように行われますか?
定期検診で受けた血液検査によって肝機能などに異常が発見され、胆道がんが見つかるケースがあります。
また、黄疸などの症状により胆道がんが疑われる場合は、超音波検査を受けるのが一般的です。
このほかに、超音波内視鏡検査、CT検査を行ってさらに詳しい検査も行います。
いずれも痛みや身体的な負担が軽くて済む検査ばかりなので、速やかに検査を受けられたほうが賢明です。
胆道がんにも有効な予防法はやはりないのでしょうか?
そうですね。
残念ながら胆道がんにも絶対的な予防法はありません。
ただ、胆道がん、特に肝外胆管がんは膵・胆管合流異常(これは内視鏡的逆行性膵管胆管造影検査により発見できる)、肝内胆管がんは肝内結石などが原因と考えられていますので、いずれも肝機能異常(特に胆道系酵素異常)や膵機能異常(アミラーゼ値など)が指摘された場合には精査が必要です。
分かりました。
では、最後に消化器がんの早期発見について、今後の展望をお聞かせいただけますか?
ここまで、消化器がんの早期発見についていろいろお話してきましたが、残念ながらいずれのがんも100%確実な予防法や治療法がまだ確立されていません。
ただ、医療は日進月歩で進んでいます。
これまで根治が望めなかったがんが根治するケースも少しずつ増えています。
その意味でも、最新の情報や治療法に詳しい、信頼できる医師をかかりつけ医に持ち、日常的に相談できる関係を築いておくことが、広い意味でがんを予防する有効な方法になると言えます。
ちょっと体調がおかしいなと思ったら、いつでも相談できる病院・医師を見つけておくことが、がん予防の第一歩です。
まずは、あなたのかかりつけ医を見つけることから始められてはいかがでしょうか。
(終わり)
日本歯科大学生命歯学部外科学講座主任教授
日本大学医学部外科系小児·乳腺内分泌外科学分野客員教授
外科、消化器外科、肝胆膵外科、大腸・肛門科、消化器がん治療
1981年9月日本大学大学院医学研究科(外科学1)を修了後、社会保険横浜中央病院外科部長、日本大学医学部助教授(准教授)を経て、1999年4月日本歯科大学外科学講座主任教授(日本歯科大学大学院外科学担当)、日本大学医学部外科系小児・乳腺内分泌外科学分野客員教授に就任。
現在は、主に小児外科、乳腺内分泌外科、一般外科、消化器外科を中心に診療を行っている。そして、消化器機能に関する研究成果から個々の患者さんに適した術後の生活を考慮した術式の選択をしている。これまでの手術症例数は6,000件にのぼる。
これまでのシンポジウム、講演などの特別演題の発表は233題(国際学会27題を含む)。一般演題は1,092題(国際学会139題を含む)。また、発表論文数は640編(英文194編を含む)で、著書は47編(英文4編を含む)を数える。
外科専門医・指導医
消化器外科専門医・指導医
消化器がん外科治療認定医
大腸肛門病専門医・指導医
肝胆膵外科高度技術指導医
癌治療臨床試験登録医
がん治療認定医機構教育医
消化管認定医・暫定専門医・暫定指導医
直腸機能障害指定医(東京都)
小腸機能障害指定医(東京都)
医師臨床研修制度指導医