がんの治療法には主に、手術(外科治療)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療の3つがあります。
なかでも化学療法は、近年の目覚しい進歩により、手術後の再発を抑制したり、がんの進行を遅らせたりする効果が飛躍的に高まっています。
今回はがんの化学療法、免疫療法にお詳しい柴田昌彦先生に、がん患者の増加にともなう社会状況の変化、また、化学療法と免疫療法の現状についてお話をうかがいました。
聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦
がんの治療法には主に、手術(外科治療)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療の3つがあります。
なかでも化学療法は、近年の目覚しい進歩により、手術後の再発を抑制したり、がんの進行を遅らせたりする効果が飛躍的に高まっています。
今回はがんの化学療法、免疫療法にお詳しい柴田昌彦先生に、がん患者の増加にともなう社会状況の変化、また、化学療法と免疫療法の現状についてお話をうかがいました。
聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦
抗がん剤治療について引き続きうかがいます。
いまは抗がん剤治療は、通院して受けるのが一般的なのでしょうか?
最近は、外来・通院での化学療法が主になりました。
基本は、在宅で治療していくという考え方です。
非常に残念な話ですが、抗がん剤治療を受けていることが勤め先に知れると、クビになったり、格下げになったりすることがあるようです。
そのあたりの配慮もあって、現在は化学療法の夜間外来や副作用対策など、通院治療のためのさまざまなサポート体制が整えられています。
また、化学療法による不妊への対応として、患者さんの卵子や精子を保存しておき、体調がよくなったら子どもが産めるようなサポートも用意されています。
これからは「がんと共に生きる」人たちが確実に増えてくるわけですね。
そうなるとますます、外来で化学療法を受ける人も増えてくるでしょう。
最初の導入時だけ、1~2日入院していただく方もいらっしゃいますが、副作用が大きな影響を与えないことが確認できれば、次からはずっと外来ですね。
近い将来、化学療法はもっと受けやすい環境になると考えてよろしいですか?
そうですね。
国もその方向で整備を進めるのではないかと思います。
具体的には、地域拠点の設置や在宅での治療に対する補助の充実です。
また、外来での治療が受けやすいように、できるだけ入院しないで済むレジメン(治療計画)を工夫する医師も増えています。
これまで入院を前提に行ってきた治療法を、外来で行ってもほぼ同等の効果が得られるようにしていく取り組みです。
ちなみに、医師によって化学療法の選択肢が多い方と少ない方がいらっしゃいますか?
化学療法の選択肢はおのずと限られます。
「ガイドライン」に沿った治療を行わねばならないという事情もありますし、患者さんによっては逆に「通院は難しいので入院でお願いします」と言われる場合もあります。
ですから、いくつかの選択肢を提示するというより、ケースバイケースで臨機応変に対応していくことのほうが重要ではないかと思います。
たとえ、「ガイドライン」に沿った治療法でも、それまで自分が行ったことのない治療法を採用するのは医師として「怖い」部分もあるのではないかと思います。
その点、経験豊富な医師であれば自信を持って治療できますよね。その差が現場では大きいのではないでしょうか。
先ほど「化学治療のホリデー」のお話がありましたが、たとえば「次の治療までの期間を1週間延ばしてもよい」という判断は、ある程度の確信が持てないと難しいですよね。
それもあるでしょうが、本格的に治療を始められる際は、いわゆるセカンドオピニオンをご活用いただいて、いろいろな先生から意見を聞き、相談し、「この先生となら将来のヴィジョンがうまく描けそうだ」という先生を見つけて決められるのがよいのではないかと思います。
たしかに、いろいろな先生からご意見をうかがい、自分で納得して治療法を選ぶという姿勢は大切ですね。
その場合、いろいろ考えた末に「治療そのものをやめてしまう」という患者さんもいらっしゃいますか?
いらっしゃいます。
そういう方に対して私たちができることはありません。しかし、病院と完全に縁を切ってしまわないようにアドバイスはしています。
治療をしないでBSC(ベストサポーティブケア)を選ばれると、将来的に寝たきりになった場合、疼痛が起きた場合、食事が食べられなくなった場合、お腹に水がたまった場合など、想定されるケースごとにどこかの時点で緩和ケアが必要になります。
治療をやめるという選択肢もありますが、その場合は先のことを見据えたうえで、いざというときは、どの病院の何という先生に診てもらうかまで、事前に決めておくことが非常に大切になります。
治療しないからといって、病院と縁を切ってしまうのはいけないわけですね。
そこは、治療をしないと決めた時点で、それまで担当していた医師がどのような判断をするかにもよります。
がんの患者さんは、容態が急変する可能性があります。
また、将来的にさまざまな症状が出てくる可能性があります。
そんなとき、どのようなサポートを受けられるかまで話し合っておく必要があります。
「食事を食べられなくなったら点滴を受けに来なさいよ」とか、「痛みが出たら、こんな薬を使いましょう。それが効かなければ、別の薬を試しましょう」とか。
いざというとき支えてくれる医師や医療機関があれば安心です。
化学療法を行っている患者さんは、いずれそういう状態になっていきます。
緩和ケア病棟はもちろんですが、最後にどこでどのようなかたちで看取ってもらうか、そこまで相談できる医師に診てもらうことが大事になるでしょうね。
(後編につづく)
福島県立医科大学先端癌免疫療法研究講座教授
同、消化管外科講座教授
消化器がんの化学療法・免疫療法、外科
1981年日本大学医学部を卒業、85年同大学院を修了後、30年以上にわたり一般外科および消化器がんの診療にたずさわる。日本大学第一外科および留学先の米国においてさまざまな手術をはじめとするがん治療とその研究に従事。阿伎留医療センター消化器病センター長、福島県立医科大学腫瘍生体治療学講座教授、埼玉医科大学国際医療センター消化器腫瘍科教授などを歴任。
2017年4月からは再び福島県立医科大学において胃がん、大腸がんを主体とする消化器がんの抗がん剤治療やがん免疫療法の実務、研究、開発に取り組む。がん以外にも一般・消化器外科の診療を専門とする。
外科認定医・専門医・指導医
消化器外科認定医
消化器がん外科治療専門医
日本臨床外科学会評議員
日本癌病態治療研究会理事
癌免疫外科研究会理事