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専門医に聞くpresented by 小豆畑病院

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04がんの化学療法(後編)

柴田昌彦先生(外科・がん治療) 2018-2-5 Update

オプジーボに代表される
がんの免疫療法が、
ようやく認められようとしています。

オプジーボに代表される
がんの免疫療法が、
ようやく認められようとしています。

後編は、今後がんの補助療法の選択肢を広げるのではないかと注目されている「免疫療法」について、引き続き柴田先生にうかがいます。その名称から誤解を受けることも多い免疫療法の「正しい知識」を、分かりやすくお話いただきました。

聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦

CONTENTS
1
免疫療法に対する大いなる誤解
2
オプジーボの登場とその可能性
3
免疫療法にできること、できないこと
4
がん研究の展望とプレシジョン・メディシン

オプジーボの登場とその可能性

——

免疫療法についてもう少し詳しくうかがいます。

そもそも、自分の免疫ががん細胞を殺せなくなるのは、どういう理由によってなのでしょうか?

柴田

免疫というのは、「これは自分なのか、自分ではないのか」という判定を常にしています。

ときには誤って自分を傷つけてしまい、病気を引き起こすこともあります。リウマチがその代表例ですね。

ただ、細胞は「これは自分ですよ」「自分ではないですよ」というアンテナみたいな“印”を出しているので、通常は免疫細胞が自分自身を攻撃することはありません。

免疫がやっつけるのは「自分ではないですよ」という印を出しているものだけです。

ところが、がんのなかには“頭の良いヤツ”がいて、「自分ではないですよ」という印をできるだけ分からないように隠しているものがあるんです。

そうなると、免疫細胞はがん細胞を見つけることができなくなってしまいます。

——

なるほど。

柴田

そこで、最新の免疫療法では、その“印”を隠しているものを外し、免疫ががん細胞を攻撃できるようにしてやります。

そうすることで、がんが小さくなることが期待できます。

——

印を隠している「ベール」は、どうやって剥がすのですか?

柴田

京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)教授が発見された「PD-1」という分子の抗体を使います。

リンパ球は疲弊してくるとPD-1という分子を出します。

それががん細胞にくっつくと、「がんを認識していますよ」というのが消えます。

つまり、PD-1は目隠しの役割を果たす分子なんです。

そこで、PD-1の抗体を患者さんの体内に入れることで、その目隠しを外すわけです。それだけで、がんが小さくなることが分かっています。

すなわち、目隠しを外せば自分の細胞はがんを認識するということです。

——

それはまだ研究段階なのですか?

柴田

いえ、すでに使われています。

いわゆる「免疫チェックポイント阻害薬」といわれるもので、薬品名としては「ニボルマブ」「イピリムマブ」と呼ばれています。

「オプジーボ」という商品名が有名ですが、これはニボルマブのことです。

先ほど話に出た「養子免疫療法」やこれまで十分な効果が示されなかったその他の免疫療法も、オプジーボとの併用で有効性が再評価される可能性が高いのではと思っています。

——

本庶先生はノーベル賞候補と言われている方ですよね。

柴田

そうなんです。

この分野は、今ものすごい勢いで研究が進んでいて、数年以内にノーベル賞を受賞するのではないかと言われています

——

オプジーボはまだガイドラインには載っていないのですか?

柴田

いえ、オプジーボは胃がん、肺がん、皮膚がんのガイドラインにはすでに載っています。

——

では、使い方も決まっているのですね。

柴田

ええ。

何番目に使うべき治療法であるとか、そういうところまで決まっています。

いまは保険も適用されます。

先ほど出た肺がん、非小細胞肺がん、皮膚がん、甲状腺がん、2017年10月には胃がんでも承認されました。

乳がんと大腸がんも、おそらく今年以降に承認されると思います。

——

特に効果が認められるのは、どのようながんに対してですか?

柴田

悪性黒色腫(メラノーマ)といわれる皮膚がんの一種です。

かつて私の患者さんで、直腸に悪性黒色腫ができた方がいらっしゃいました。

悪性黒色腫は皮膚がんなので、普通は手のひらや足の裏にできるのですが、直腸にできることもあるんです。

その患者さんは、直腸がんの通常の手術をまず行いました。

しかし、そのときすでに肝転移があったので、リンパ球を患者さんからつくりがん細胞と一緒に培養したところ、それを認識したので増やしてあげて、リンパ球を肝臓に打ち続けました。

その効果があって、患者さんは5年間生きられました。

現在でも、肝転移で切除できない悪性黒色腫があると、5年というのは望むべくもない状況なのですが、その患者さんは免疫療法によってなんとか5年生きられたという症例です

——

5年というのはすごいですね。

柴田

ただ、免疫療法はものすごく費用がかかるんです。

——

どれくらいですか?

柴田

治療期間にもよりますが、オプジーボの場合は1カ月で100万円程度です。それでも、政府からの申し出によりオプジーボは半額になったんです。さらに、保険で高額医療補助の申請をすればもう少し安くなると思います。

——

ちなみに、オプジーボを使用する医師には、何かライセンスが必要になるのですか?

柴田

いまのところ必要ありませんが、病院としては施設基準を満たす必要があります。

 

(つづく)

柴田昌彦

柴田昌彦shibata masahiko

福島県立医科大学先端癌免疫療法研究講座教授
同、消化管外科講座教授

専門

消化器がんの化学療法・免疫療法、外科

1981年日本大学医学部を卒業、85年同大学院を修了後、30年以上にわたり一般外科および消化器がんの診療にたずさわる。日本大学第一外科および留学先の米国においてさまざまな手術をはじめとするがん治療とその研究に従事。阿伎留医療センター消化器病センター長、福島県立医科大学腫瘍生体治療学講座教授、埼玉医科大学国際医療センター消化器腫瘍科教授などを歴任。
2017年4月からは再び福島県立医科大学において胃がん、大腸がんを主体とする消化器がんの抗がん剤治療やがん免疫療法の実務、研究、開発に取り組む。がん以外にも一般・消化器外科の診療を専門とする。

専門性に関する資格

外科認定医・専門医・指導医
消化器外科認定医
消化器がん外科治療専門医
日本臨床外科学会評議員
日本癌病態治療研究会理事
癌免疫外科研究会理事