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専門医に聞くpresented by 小豆畑病院

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04がんの化学療法(後編)

柴田昌彦先生(外科・がん治療) 2018-2-5 Update

オプジーボに代表される
がんの免疫療法が、
ようやく認められようとしています。

オプジーボに代表される
がんの免疫療法が、
ようやく認められようとしています。

後編は、今後がんの補助療法の選択肢を広げるのではないかと注目されている「免疫療法」について、引き続き柴田先生にうかがいます。その名称から誤解を受けることも多い免疫療法の「正しい知識」を、分かりやすくお話いただきました。

聞き手:相山華子(ライター)/写真:西山輝彦

CONTENTS
1
免疫療法に対する大いなる誤解
2
オプジーボの登場とその可能性
3
免疫療法にできること、できないこと
4
がん研究の展望とプレシジョン・メディシン

がん研究の展望とプレシジョンメディシン

——

免疫療法をめぐる今後の動きとしては、どのようなトピックがありますか?

柴田

免疫療法で技術提携している製薬会社の多くが今一番力を入れているのが、オプジーボとの併用で効果が高まる新薬の開発です。

一方、保険会社はがん予防の研究にたくさんの投資をしています。特に外資系の保険会社が熱心ですね。

発がんしているものを早めに殺してしまう樹状細胞を、元気な人のがん予防に応用できないかという研究も進めています。

希望する方には、それらを被験者として受けられる時代がすぐそこまでやってきています。

——

そういう研究の中心はアメリカですか?

柴田

いえ、アメリカでもやっていますが、今はむしろ日本のほうが進んでいるように思います。

——

腫瘍免疫の分野は日本がトップランナーなんですね。

柴田

そうですね。

本庶先生をはじめ、トップランナーの研究者が何人もいらっしゃいますので。

ただ、研究への投資額はやはり欧米に負けています。

それもあって、現在は日本の優秀な頭脳がどんどん欧米に流出しているというのが免疫研究の世界で起きていることです。

——

大規模治験になると、欧米のほうがやりやすいですよね。

柴田

ええ、患者さんにもお金が出ますから。

それに、Aの治療とBの治療、効果が高いのはどちらかというような「レースのような治験」が欧米では普通にできますが、日本でそれをやるのはなかなか難しい。

——

ちなみに、冒頭で話題になった「プレシジョン・メディシン(高精度医療)」ですが、こうした取り組みは日本でも進んでいるのでしょうか?

柴田

日本でも動いています。

端的に言えば、プレシジョン・メディシンというのは「遺伝子をターゲットにした治療」です。

日本でもずいぶん前から、国立がん研究センターを中心に研究が進められて大きな成果を上げてきました。

現在は臨床試験で効果を証明している最中です。

どの薬がどのタイプの患者さんに効くかが具体的に分かれば、製品化への検討も始まります。

「がんは遺伝子の変化だ」と言われますが、じつは遺伝子の変化といっても、必ずしも均一ではありません。

同じがんでも、部分的に違う遺伝子の変化が起きているのです。

ですから、プレシジョン・メディシンを使っても、遺伝子によって効く・効かないがあるだろうと思います。

その意味では、プレシジョン・メディシンが文字どおり「夢の薬」になるのかどうかは、まだ分かっていません。

——

オバマ大統領が予算を増額したという話がありましたが、この分野の研究が進んでいるのはアメリカのほうですか?

柴田

以前はそうでした。

ところが、トランプ大統領が就任すると、がん研究の予算が30%も削られてしまったんです。その影響が今後どう出てくるか、懸念されているところです。

——

日本の場合は?

柴田

国立がん研究センターの人の話では、プレシジョン・メディシンの候補はかなり限られているようです。

その理由として、日本の企業だけでは研究開発がなかなか難しいこと、日本では治験が進みにくいこと、グローバルな研究が行いにくいことなどが挙げられそうです。

——

では最後に、柴田先生が描かれているがん治療の展望についてお聞かせいただけますか?

柴田

私はもともと外科医なのですが、ここ数年はずっと免疫の研究を続けてきました。

大きなテーマとしては「免疫をどのように効かせるか」ですが、このところの研究テーマは逆に、「なぜ、免疫が効かないのか?」にシフトしてきました。

いろいろ調べてみると、炎症を起こした人のがんは急激に悪くなることが分かってきました。

あと、炎症をもとにがんができる人がいることも分かってきました。

炎症がもとで化学療法が効かなくなる、寿命が短くなる人がいることも分かりました。

そこで、現在の研究テーマは「炎症をがん治療にどのように取り入れるか」になっています。

これは、古くて新しいテーマで、最近はこの分野の研究が進んでいます。

プレシジョン・メディシンによって目が覚めるような成果がすぐに出るとは思いませんが、それががん研究全体の底上げとなり、それをきっかけに、さらにがんの研究が進むことを期待しています。

 

(終わり)

柴田昌彦

柴田昌彦shibata masahiko

福島県立医科大学先端癌免疫療法研究講座教授
同、消化管外科講座教授

専門

消化器がんの化学療法・免疫療法、外科

1981年日本大学医学部を卒業、85年同大学院を修了後、30年以上にわたり一般外科および消化器がんの診療にたずさわる。日本大学第一外科および留学先の米国においてさまざまな手術をはじめとするがん治療とその研究に従事。阿伎留医療センター消化器病センター長、福島県立医科大学腫瘍生体治療学講座教授、埼玉医科大学国際医療センター消化器腫瘍科教授などを歴任。
2017年4月からは再び福島県立医科大学において胃がん、大腸がんを主体とする消化器がんの抗がん剤治療やがん免疫療法の実務、研究、開発に取り組む。がん以外にも一般・消化器外科の診療を専門とする。

専門性に関する資格

外科認定医・専門医・指導医
消化器外科認定医
消化器がん外科治療専門医
日本臨床外科学会評議員
日本癌病態治療研究会理事
癌免疫外科研究会理事